メダカのオープンフィールドテスト

Medaka fish

私たちの新たな研究課題は、『動物はどのようにして見ているのか?』です。そこで、高度な視覚系を持っているメダカがモデル動物として選択されました。メダカとは漢字で『目高』と書きます。メダカの目はとても特徴的に大きいので、その名称にまで入っているのです。

とは言っても、残念なことにメダカの行動学はほとんど行われていないのが現状です。そこで行動学の最も基本的なテストの一つであるオープンフィールドテストをメダカで行うことにしました。オープンフィールドテストはマウスやラットなどの齧歯類でよく行われている行動解析の一つです。動物を円形あるいは四角いフィールドの中に置き、その活動量や位置の変化を観察します。とても単純なテストですが、いろいろな情報を得ることができます。例えば、動物の場所への慣れを観察するのにとても適しています。オープンフィールドは動物にとっては新規な場所になりますが、その新規な場所に慣れるにつれて場所が記憶されていき、動物は行動を変化させていきます。

慣れを観察するためのオープンフィールドテストは、大きくイントラセッションテストとインターセッションテストに分けることができます。イントラセッションテストでは、動物をオープンフィールドに入れて連続的にその変化を観察します。慣れの記憶の中でも短期的なワーキングメモリーを調べることができます。インターセッションテストでは、動物を複数回不連続的に(例えば1日1回8時間を7日間連続とか)オープンフィールドに入れてセッション間の変化を観察します。慣れの記憶の中でも長期的な記憶の形成を観察することができます。

はたしてメダカは場所を記憶することができるのでしょうか?



Open field test in the medaka fish

まずはイントラセッションテストです(上図参照)。メダカを四角い水槽に入れ、9:00から17:00まで上からと横からビデオ記録をとります。ビデオから活動量とメダカの位置を定量化していきます。するといくつかのおもしろい特徴が見えてきました。

その一つがダイビングレスポンスと呼ぶ現象です。これは最初の1分間だけ観察されました。メダカは新規環境に入れられると約1分間水槽の底に沈んでしまいます。このダイビングレスポンスは不安や恐怖の指標になると考えられます。

このダイビングレスポンスが終わると、メダカの活動量は上昇していきます。ところが、水平方向の活動量の変化と垂直方向の活動量の変化はずいぶんと異なることが分かってきました。


水平方向の活動量の変化

垂直方向の活動量の変化
水平方向の活動量は最初の10分ほどで急激に上昇し、その後は徐々に減少していきました。一方、垂直方向の活動量は数時間かけてゆっくりと上昇していき、そして数時間かけてゆっくりと減少していきました。このことはメダカは、新規環境で活動する際には、水平方向と垂直方向を区別して探索していることを示唆しています。いずれにしましても、最終的には場所に慣れ、メダカの活動量は減少していきます。

次にインターセッションテストです。



Open field test in the medaka fish

インターセッションテストでは、上図のように日を変えてオープンフィールドテストを2回(1日目と2日目)行いました。その際、水槽に視覚的なキューを付けたり外したりしました。まず視覚的なキューが両日ともない場合は、メダカの活動量(水平方向)は1日目よりも2日目のほうが減少していました。このことはメダカの空間記憶は日を越えても保持されていたことを示唆します。そこで視覚的なキューを一日目、あるいは二日目に付けると、メダカの活動量(水平方向)の変化は消失しました。この結果は、メダカは視覚的な情報を元にして空間記憶をしていることを示唆しています。

オープンフィールドテストの結果は、メダカが高度な視覚システム及び記憶システムを持っていることを意味しています。今後、メダカを使った心理物理学を展開していきます。

Matsunaga, W., and, Watanabe, E., Habituation of medaka (Oryzias latipes) demonstrated by open-field testing, Behavioural Processes 85, 142-150 (2010) [pubmed]

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